三菱マテリアル銅加工事業

三菱マテリアル銅加工事業

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CASE STUDY

養殖生簀用銅合金「UR30ST」導入事例

カンパチ養殖の業務負荷を大幅に削減!
驚くべき「銅合金生簀」の効果とは

養殖事業者でかかるコストの6〜7割は、魚の餌代といわれる。そのため、いかに大きく早く育てるかが利益を左右することになる。特に成長スピードに影響するのは生簀(いけす)内の環境であり、ハダムシなど寄生虫の発生に多くの養殖事業者が頭を悩ませてきた。
この課題を乗り越え、カンパチの養殖コストを大幅に削減したのが久保水産である。
国内カンパチ養殖の先駆者でもある同社が愛用する銅合金生簀の効果に迫った。

養殖事業者が抱える3つの課題

これまで水産業の養殖には、化学繊維や鉄などで作られた網の生簀を使用することが一般的だった。これらの網は安価で購入しやすいものの、長期的にみるとさまざまなデメリットが生じてくる。

代表的な課題としては、「網に付着する汚れ」「ハダムシなど寄生虫の被害」「環境への負荷」の3点を挙げられる。化繊や鉄の網は海に浸けてから数カ月で貝や藻が付着して目詰まりを引き起こしてしまう。目詰まりによって網内の海水がその場に停滞すると、さまざまな問題につながっていく。

例えば、貝・藻が付着した生簀のメンテナンス清掃だ。高圧洗浄機を使用して手作業で汚れを落とすケースが多く、膨大な手間とコストがかかる。また特殊な作業に対応可能なダイバーの数も減少してきており、ロボットで一部対応できるものの、その費用も決して安価ではない。さらに、除去した貝や藻類の処理も課題となっている。

そのほか、ハダムシなど寄生虫の発生も問題だ。ハダムシは自然界に存在し海中を漂っているが、網に付着した藻類は寄生虫にとって格好の産卵、孵化場所となる。寄生された魚はあちこちで体表をこすって傷だらけになり、時には出血や失明することもある。このような健康被害から、寄生虫を除去するために魚を淡水浴させなければならない。淡水浴は魚のストレスや食欲不振も招き、成長スピードも阻害してしまうため、結果的に出荷までの期間を長引かせることになる。

日本は世界トップクラスに広い海岸線を有しながらも、養殖事業がなかなか広がっておらず、国内で漁業総生産量に占める養殖の割合はわずか2割ほどにとどまっている。こうした現状にはさまざまな要因があるが、いずれにしても養殖事業発展のためには、先述した業務上の問題点を解消していくことが望まれる。

※出典:一般社団法人全国海水養魚協会「グラフで見る養殖業」

養殖事業者の課題解決に「銅合金」で応える「UR30ST」

UR30ST

こうした課題に応える製品が、三菱マテリアルの開発した「UR30ST」という銅合金だ。66%の銅分を中心に、特性を引き出す元素を配合して構成される。銅の抗菌性に着目したことが開発のきっかけであり、三菱マテリアルが数百という試行錯誤をくり返したうえで、ようやく製品化にこぎつけた。

国内ではUR30STを知らない養殖事業者もいるかもしれないが、実は世界中の養殖業を支えてきた人気製品でもある。水産養殖は世界的に成長産業であり、より効率的な養殖が求められている。岸から離れた沖合での養殖は沿岸と異なりその管理が大変だが、UR30STはその特性によりメンテナンス費用を低減できるため、近年アメリカ、メキシコ、パナマ、中国などの各国で採用例が増え、飼料効率の改善、死亡率の低下で各国の養殖産業に貢献している。

世界各地での導入実績

1998年以来、世界各地で導入された実績がある

  • Courtesy of InnovaSea Systems, Inc.

  • Courtesy of InnovaSea Systems, Inc.

  • Courtesy of InnovaSea Systems, Inc.

  • Courtesy of InnovaSea Systems, Inc.

  • Courtesy of InnovaSea Systems, Inc.

養殖事業者のコスト削減に大きな効果

UR30STの特長は「防汚性」と「耐久性」、「リサイクル性」である。

まず、水中につけた亜鉛メッキ鋼線とUR30STの変化を比べると、その差は一目瞭然である。設置から8カ月時点で、亜鉛メッキ鋼線にはすでに多量の汚れが付着している。

このままでは目詰まりを起こし、潮通しの悪化に加え、波の抵抗を受けて生簀の形状も変わってしまう。これがいわゆる「網吹かれ」であり、変形によって生簀の容積が変わるのは養殖業者にとって頭の痛い問題だ。そのため洗浄により藻貝類を除去する必要があるが、コストもかかってしまう。

これに対し、UR30STは1年が経過しても汚れがほとんど付着していない。2年経っていても洗浄や交換はほとんど不要であることが多く、長く使い続けるほどコストパフォーマンスの良い製品だ。

UR30ST(設置後1年)
設置後1年経過しても汚れがついていない

亜鉛メッキ鋼線(設置後8カ月)
設置から8カ月時点ですでに多量の汚れが付着している

さらにUR30STは金属網であるため、化繊網のようにサメやアザラシなどに網を食い破られない「耐久性」を持つ。これらの海獣によって網が破られ魚が逃げ出すといった被害は地域によっては深刻だが、その心配がなくなる。

もう1つ、UR30STには導入コストと環境負荷を抑えるリサイクルというメリットもある。交換時期を迎えたUR30STは三菱マテリアルに買い取ってもらいリサイクルに出すことができるのだ。養殖業者は廃棄処理コストを抑えられるだけでなく、下取りに出した金額を新たな生簀の購入費用に充てることで、よりコストパフォーマンスを高められる。三菱マテリアルは買い取った古網を溶解することで、新たな網として生まれ変わらせる。

海洋環境においては、汚れの除去作業によって生じていた水質の悪化を防ぐこともでき、養殖環境を守ることに貢献するサステナブルやSDGsといったキーワードが重視される昨今では、養殖事業者が社会的責任を果たすという意義は大きいといえる。

UR30STを使用した実際の様子

最大4カ月の養殖期間短縮に成功した「久保水産」の事例

最後に、このUR30STを導入することで実際に効果を得られた事例を紹介しよう。高知県の「久保水産」は、親子二代で30年以上にわたってカンパチの養殖を専門に手がけてきた。父の久保隆邦氏は、国内にカンパチの養殖技術がなかった頃に初めて養殖に成功し、全国に広めたパイオニアでもある。

「私たちは年間7万~10万匹のカンパチを出荷しています。一番の特徴は色味で、赤やオレンジの天然に近いような色をしています。刺身にすると虹色のようで、カンパチ本来の旨味が凝縮されています」と語るのは、隆邦氏の息子の久保栄作氏である。

現在、久保水産に生簀は7基あり、そのすべてにUR30STを使用している。高い防汚性により、網自体の洗浄やメンテナンスは、生簀を最初につけてからあげるまでの3年半~4年間でまったく必要ない。化繊の場合は最低でも年に1回は高圧洗浄を行い、防汚剤を塗布する必要があるという。

「網自体に汚れがつかないだけでなく、ハダムシなど寄生虫の対策にも役立っています。通常の生簀なら寄生虫を魚から除去する『淡水浴』という消毒作業を10日くらいに一度は実施しなければなりませんが、UR30STでは月に一度です。調子が良いと10カ月ぐらい淡水浴をしなくていい時期もありました」(久保(栄)氏)

また、養殖事業者の売上を左右する魚の出荷スピードを早めることにも役立っている。一般的なカンパチの養殖であれば出荷まで18~20カ月を要しているが、久保水産は最短14カ月での出荷に成功している。赤潮や台風といった環境要因の影響を受けたとしても、平均2~3カ月短縮できる計算だ。餌の量もおよそ30トンかかるところが18~20トンで済み、餌代を大きく削減することができている。

「カンパチに淡水浴をさせるためには、4~5日の飢餓状態にする必要があります。淡水浴の翌日はどうしてもストレスや疲れで食欲不振になりがちで、食欲が回復しても失った体重を取り戻すために多量に食べるだけで、体自体は大きくなりません。体重のロスが出るので、それだけ全体の出荷スピードも遅くなります。しかし、UR30STによって魚の健康状態をキープできれば、淡水浴による体重減量が少ないのでより大きく早く育ち、結果的に出荷のスピードが早まっていると思います」(久保(栄)氏)

このようにUR30STは防汚性、耐久性、リサイクル性で選ばれている。コロナ禍を経て厳しい市場を生き残るために、養殖事業者はぜひUR30STを活用してみてはいかがだろうか。

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